急に雑木林が切れて前が明るくなり、そこにはバナナの木が群生していた。あちこちにたわわに実ったバナナが枝を垂れていた。まさに天の助けと、どっかりと腰を下ろして、しばらくは辺りを眺めていた。すると、どこからか人の話し声が聞こえてきた。敵のゲリラかと身構えていると、背の低い頭らしい男を先頭に、20人余りの男女の一段が近づいてきて、我々を不思議そうに見て、ガヤガヤ話し合っていた。別に敵対心を持っている様子も見えなかったので、手振り身振りで腹の減っていることを告げて、バナナをくれるように頼んだ。すると頭らしい男が、皆に何事か指示した。するとさっと散っていったが、しばらくすると、手に手にバナナや飲み物を持ってくきて食べろと勧めてくれた。
久しぶりに食べ物にありついた我々は、むしゃぶるように口に入れた。飲み物は椰子酒で、まるでサイダーに似た味がした。みんな何十日かぶりに満腹感を味わい、やっと生き返った気持ちになった。彼らもうなづいてくれたので、皆が体力を回復するまで留まることにして、バナナの葉っぱを使って寝ぐらを造り、しばらくぐっすりと眠った。
空を仰ぎながら、今までのことを思い浮かべながら、人の運命の不思議さを考えた。これから先どうなるか想像もできなかったが、みんなで頑張って生きていこうと話し合った。
彼らの正体も少しずつ分かってきた。彼らは山岳原住民の種族で、親戚一族で集落をつくり、山を開いて陸稲や野菜を作り、鶏などを飼育して自給自足の生活をしており、長老の男が一族をまとめていることが分かってきた。朝昼晩と食べ物を運んできてくれた。
いつの間にか5日間が過ぎて、みんな体力もすっかり回復してきたので、ここを離れることにした。
長老が引き止めたが、皆で心から感謝の気持ちを表して出発することにした。出発する時には、彼等から陸稲の籾を、それぞれ背のうちにいっぱいもらい、マラリアに効くという薬草をくれた。途中、谷川のほとりで鉄兜を臼代わりにして、玄米を作り、谷川でなまずを捕ったりしながら行軍を続けた。
いつの間にか4ヶ月が過ぎて、7月を迎えていた。どの顔もみんな髭も髪も伸び放題で、髭面の中に目玉が光っているような形相になっていた。服も着たきりで、いつの間にか虱が湧いており、谷川で洗濯や水浴をしながら、虱退治をしながら過ごすこともあった。
皆生きることだけを考えながらの毎日が続いたが、私は最後まで彼等を守ってゆかねばと思いながら、元気づけていた。そのうちに整備兵の吉兼上等兵が発熱し、マラリアの心配が出てきた。そこで少尉に皆の引率を頼んで出発させ、一人残って吉兼上等兵の面倒を見ることにした。幸いなことに現住民からもらっていた薬草を煎じて与えたところ、それが効いたのか3日程で回復して、皆のあとを追った。吉兼上等兵も泣いて感謝してくれた。
▪️次回の予告
じいちゃんが書いた自叙伝 Chaper.5
〜仙台陸軍飛行学校入校〜 Section.8(戦争の終結)
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